雨の日、桜の木の下の少女たち

novelcluster.hatenablog.jp こちらに参加します。 雨の日は雨のにおいが支配する。普段、街中にふわふわと漂っている柑橘系の防腐剤のにおいは、雨のにおいに覆い隠されていた。 朝からの雨、彼は開店前のスーパーの庇で雨宿りをして、車道を挟んだ向こう側…

旅の記憶

【第10回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」novelcluster.hatenablog.jp こちらに参加します。 瞼を触る。右手の薬指と小指を軽く折り曲げ、人差し指と中指をゆるく伸ばして、その指先で瞼をなぞっていく。左瞼、右瞼と…

ペンギンのサチさん

<a href="http://p.booklog.jp/book/95890" data-mce-href="http://p.booklog.jp/book/95890">ペンギンを蒸す機械</a> ペンギンを蒸す機械アンソロジー主宰します— 笹帽子 (@sasaboushi) May 7, 2015 ペンギン…

梅雨の風景

<a href="http://novelcluster.hatenablog.jp/entry/2015/06/20/000000_1" data-mce-href="http://novelcluster.hatenablog.jp/entry/2015/06/20/000000_1">【第2回】文章スケッチの広場 お題「夕立」 - 短編小説の集い「のべらっくす」</a>novelcluster.hatenablog.jp こちらに参加します。 昼に青く晴れていた空は薄灰色の雲をじわじわと生み出して、夕刻には雨を降らせる準備を終えていた。学校帰りの少女が高架下…

生肉とツナ&たまごサンド

昨晩のこと。コンビニに繋がれた犬を撫でたら涼しい手触りで、夜はまだ寒いなという、ちょっとしたエピソードを思い出した。血統証付きのような中型犬で、でも雑種だったかもしれない。撫でようと手を伸ばしても避けたりはせずに、けれど驚いた顔でわたしを…

桜の木の下の世界

<a href="http://novelcluster.hatenablog.jp/entry/2015/03/20/000000" data-mce-href="http://novelcluster.hatenablog.jp/entry/2015/03/20/000000">【第6回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」</a>novelcluster.hatenablog.jp 上記の企画に参加させていただきます。去年書いたもの二編に、もう一遍追加して3300字程度。三人称と二人称で綴るという変則的な構成なのですが…

胡蝶の夢の猫

「ここが夢の中じゃないなんて誰が決めた?」 猫はそう言ってするりと裏路地に入っていった。その言葉を投げかけられた女の子は一瞬きょとんとしたけれど、猫を追って路地に入っていく。路地は狭く、人が一人やっと通れるくらい、建物の隙間をコンクリートで…

御座とモデルと抹茶のアイス

キャンバスに描き出される少女は幼く、虚空に目を向けていた。白い肌を部屋の空気に晒し、腰の辺りだけがシーツに隠されている。洋間に敷かれた御座にお尻をつけて、右足を立膝にして、両手を後ろに置いて身体を支えている。女性の丸みはまだ微かで、うっす…

単眼さんとヘッドドレス

デジカメを買ったのは、旅行に行ったときのためにだとか、日々の何かを撮るためにだとか、近所の野良猫を撮るためにだとか。それから単眼さんを撮るためにだとか。 への字に結んだ口がかわいかった。憮然とした表情で、何も言わずに立ち尽くしている。白いひ…

三つ編み少女と白い女の子

彼女のいるベンチは木の茂みで半ば隠されて、わたしと彼女はお互いを確かなものだとは感じてはいない。木の葉が揺らいでお互いの姿を完全に隠してしまうたびに、その存在が途切れてしまう。そんな想像が案外と楽しかった。シュレーディンガーの猫のようで。 …

王道の恋愛ストーリー

もう緑が混じる散りかけの葉桜を見て、雨の日の濡れた桜のつぼみを思い出すのは変なことだろうか。隣を歩く彼にそう言うと、変な顔をされるだろうか。変な想像をされるかもしれない。そう思うと、喉の奥が小さく笑みの音を立てた。濡れた桜のつぼみは、個人…

旅先で突然偶然一日暇が出来てしまった女の子のお話

温泉とお城があるところ。わたしがオーダーしたのはその二つだった。旅行の計画者はパンフやチラシやインターネットを駆使して、ちゃんとわたしのオーダーを叶えてくれた。けれども、その本人は急な仕事が入ったとのことで一日遅れるそうだ。 巡り合わせが良…

熊の本

ロングスカートの裾に絡みつくように、ハードカバーの本が歩いていた。黒っぽい表紙。女の子が寝そべっている絵と、黒板にチョークを滑らせて描いたような椅子や蝶々。本に足が生えていたりはしない。角と角とでステップを踏んで、コツ、コツ、コツ、とヒー…

水曜日のサビ猫

水曜日のサビ猫 水曜日は公園でお昼を食べることにしていた。駅の向かう途中にあるパン屋が水曜日をサービスディにしていて、調理パンが二割引きになる。ミックスサンドを買ってから方向転換し、高架下をくぐって駅の裏のほうに歩いていく。 飲食店は表通り…

単眼さんまとめ

単眼さん 大きな眼がいい、可愛い。わたしがそう言うと、単眼さんはその眼を細めて、「そんないいもんでもないよ」と応えた。でもわたしは単眼さんの眼がとても好きで、いいないいなと思いながら正面からじっと見つめる。単眼さんは居心地悪そうにして、その…