単眼さんとヘッドドレス

 デジカメを買ったのは、旅行に行ったときのためにだとか、日々の何かを撮るためにだとか、近所の野良猫を撮るためにだとか。それから単眼さんを撮るためにだとか。

 への字に結んだ口がかわいかった。憮然とした表情で、何も言わずに立ち尽くしている。白いひらひらのヘッドドレスが単眼さんの大きな目には似合っていた。それを言ってしまうと、単眼さんはもっと憮然とした表情をするのだろう。

 その表情が見たい気もしながら、わたしはデジカメをかまえる。ひらひらの袖口からすっとはみ出た単眼さんの右手が、胸の高さにまで上がって、またゆっくり降りていく。そうした仕草にわたしはつい、かわいいのに、と口の中でつぶやく。その口の動きを見ていたのか、単眼さんの目が睨みつけるように細まった。

 笑いかけたいのを我慢しながら、わたしは真面目な顔をしてデジカメのピントを合わせた。ぼんやりとした輪郭の単眼さんが次第にくっきりしてくる。わたしの口元は自然と笑みを作っていた。

 姉が昔、文化祭用に作ったというひらひらのメイド服があったので、単眼さんを呼んで着せ替え人形にしていた。単眼さんはもちろん嫌がったけれど、なだめすかして、拗ねてみたりすると、ようやく着てくれたのだった。写真を撮るのももちろん嫌がって、屁理屈の限りを尽くした末のジャンケン勝負をして、単眼さんのメイド服姿を写真に収める権利を得たのだ。

「……今回だけだからね」

 睨みつけるような目をデジカメのレンズに向けながら単眼さんは言う。わたしは頷いて、「笑って」と返した。

 けれども単眼さんは笑ってくれない。睨みつけるようなジト目と、引き結んだへの字口。ほんのりと赤い頬。髪に隠れた耳なんかも赤いかもしれない。機嫌の悪そうなメイドさん。自分の笑みが深くなるのがわかる。

 笑ってくれなくても全然かわいいので、「撮るよ」と告げてからシャッターを切った。ばしばし撮っていると、そのうちに単眼さんは頭に手をやってひらひらのヘッドドレスをもぎ取り、わたしのほうに投げつけた。けれども空気抵抗があって、わたしの足先にふわりと着地する。

 わたしは屈んで、足先のひらひらの布を拾い上げると、埃を払いながら単眼さんに近寄り、またそっと彼女の頭に被せた。単眼さんの髪を頬に感じながら、布についている二本の紐をきゅっと結ぶ。単眼さんはふいを突かれたようにじっとしていた。

 それからわたしは後ずさりして、距離を取ってからまたデジカメをかまえる。ふっと息を吐く音が聞こえた。

 単眼さんはようやく笑ってくれた。わたしはその呆れたような苦笑にデジカメを向けてシャッターを切った。