梅雨の風景

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 昼に青く晴れていた空は薄灰色の雲をじわじわと生み出して、夕刻には雨を降らせる準備を終えていた。学校帰りの少女が高架下沿いの細い道に歩を進めつつ、あるとき、そっと自分の頬に手をやり、空を見上げた。すぐに大きな雨粒が彼女の袖口を掠め濡らした。雨粒は彼女のそばのアスファルで弾けて模様を作り、しばらくもしないうちに幾つもの模様がばちばちと音を立てて生まれ始めた。やがてそれらは無数に敷き詰められ、互いが互いの模様を打ち消し合い、結果としてアスファルトの色を濃いものにした。

 少女は髪や肩を濡らし、けれどそれ以上雨で服を重たくすることを避け、高架下のコンクリート壁に背中を預けてやり過ごすことにする。弾けた雨粒の欠片が彼女の膝やふくらはぎに涼やかさを与える。彼女の目に映るのは雨の膜に霞む薄灰色の空。時折、雨粒が作る線に目の焦点を合わせようとして失敗し、視界をぼやけさせ、長い瞬きをした。車の音に反応して首を傾けたり、鼻歌を歌い始めて歌詞が思い出せずに途中でハミングにしたり、湿った空気を吸い込んだり、それらを適当な割合で組み合わせ、繰り返したりして時間をつぶした。

 そうしているうちに雨音が次第に静まっていく。少女は「んっ」と鼻を鳴らして、預けていた背中を壁から離した。