2014-01-01から1年間の記事一覧

御座とモデルと抹茶のアイス

キャンバスに描き出される少女は幼く、虚空に目を向けていた。白い肌を部屋の空気に晒し、腰の辺りだけがシーツに隠されている。洋間に敷かれた御座にお尻をつけて、右足を立膝にして、両手を後ろに置いて身体を支えている。女性の丸みはまだ微かで、うっす…

単眼さんとヘッドドレス

デジカメを買ったのは、旅行に行ったときのためにだとか、日々の何かを撮るためにだとか、近所の野良猫を撮るためにだとか。それから単眼さんを撮るためにだとか。 への字に結んだ口がかわいかった。憮然とした表情で、何も言わずに立ち尽くしている。白いひ…

三つ編み少女と白い女の子

彼女のいるベンチは木の茂みで半ば隠されて、わたしと彼女はお互いを確かなものだとは感じてはいない。木の葉が揺らいでお互いの姿を完全に隠してしまうたびに、その存在が途切れてしまう。そんな想像が案外と楽しかった。シュレーディンガーの猫のようで。 …

王道の恋愛ストーリー

もう緑が混じる散りかけの葉桜を見て、雨の日の濡れた桜のつぼみを思い出すのは変なことだろうか。隣を歩く彼にそう言うと、変な顔をされるだろうか。変な想像をされるかもしれない。そう思うと、喉の奥が小さく笑みの音を立てた。濡れた桜のつぼみは、個人…

旅先で突然偶然一日暇が出来てしまった女の子のお話

温泉とお城があるところ。わたしがオーダーしたのはその二つだった。旅行の計画者はパンフやチラシやインターネットを駆使して、ちゃんとわたしのオーダーを叶えてくれた。けれども、その本人は急な仕事が入ったとのことで一日遅れるそうだ。 巡り合わせが良…

熊の本

ロングスカートの裾に絡みつくように、ハードカバーの本が歩いていた。黒っぽい表紙。女の子が寝そべっている絵と、黒板にチョークを滑らせて描いたような椅子や蝶々。本に足が生えていたりはしない。角と角とでステップを踏んで、コツ、コツ、コツ、とヒー…

水曜日のサビ猫

水曜日のサビ猫 水曜日は公園でお昼を食べることにしていた。駅の向かう途中にあるパン屋が水曜日をサービスディにしていて、調理パンが二割引きになる。ミックスサンドを買ってから方向転換し、高架下をくぐって駅の裏のほうに歩いていく。 飲食店は表通り…